東京地方裁判所 平成4年(ワ)12520号 判決 1994年4月15日
原告
森田喜久雄
右訴訟代理人弁護士
飯野信昭
被告
三和ファイナンス株式会社
右代表者代表取締役
山田紘一郎
右訴訟代理人弁護士
笹浪恒弘
同
笹浪雅義
同
高瀬靖生
主文
一 被告は原告に対し、金三二〇万三二二五円及びこれに対する平成四年九月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを九分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は原告に対し、金三六〇万円及びこれに対する平成四年九月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二争いのない事実
一 被告は、金融業、不動産の売買及び仲介等を目的とする会社であるが、宮崎県宮崎郡佐土原町(住所略)所在の紘田病院(以下「本件病院」という。)の土地建物を所有し、本件病院開設者との契約に基づき、本件病院の経営面における運営を行っていた(なお、本件病院は、平成四年八月一〇日付けで廃院された。)。
原告は、平成三年五月七日、被告と左記雇用契約を締結した者である(以下「本件雇用契約」という。)。
記
地位 本件病院の事務長
賃金 月額三〇万円
給与支払日 毎月二五日
本件病院に勤務する医師、看護婦等の職員に対する給与は、本件病院の事務長である原告がこれを毎月計算したうえで被告に請求し、被告は右請求に基づく金額を本件病院に送金していた。
二 被告は、原告が本件病院の職員の給与を後記のとおり被告に水増ないし架空請求してこれを着服したことが懲戒解雇事由に該当するとして、平成三年一〇月八日付けで原告を懲戒解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。
三 原告は、本件解雇は無効であるから、本件雇用契約は、本件病院が廃院された後も少なくとも九月二〇日までの間は依然継続していたと主張し、右期日までの未払給与三六〇万円(平成三年九月二一日から平成四年九月二〇日までの給与)及び右給与の最終支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めている。
第三当事者の主張
一 被告の主張
1 被告の給与規定によれば、出勤率が六五パーセント以下の者に対して支払うべき給与は、基本給、役付手当、家族手当、資格手当、特別手当、住宅手当の六五パーセントである。
ところが、原告は、平成三年九月分の給与につき、左記のとおり、出勤率が六五パーセント以下の職員につき、右給与規定に従い算出される金額を越える金額を水増請求し、被告は右金員を本件病院に送金した。
記
<1> 甲斐弘子(出勤率は四八・一パーセント)
給与規定に従い算出される給与総額は二四万九二四〇円であるところ、原告が被告に請求した給与総額は三八万円であり、水増請求額は一三万〇七六〇円である。
<2> 樺山敦子(出勤率は二九・一パーセント)
給与規定に従い算出される給与総額は一三万五五四〇円であるところ、原告が被告に請求した給与総額は一七万四〇〇〇円であり、水増請求額は三万八四六〇円である。
<3> 中島りつ子(出勤率は五一・六パーセント)
給与規定に従い算出される給与総額は一二万二一七〇円であるところ、原告が被告に請求した給与総額は一八万五八〇〇円であり、水増請求額は六万三六三〇円である。
2 原告は、左記のとおり、被告との間に雇用関係がない者の給与を被告に請求し、被告は右金員を本件病院に送金した。
記
<1> 裴鴻文
平成三年七月分 五〇万円
同年八月分 五〇万円
同年九月分 五〇万円
合計 一五〇万円
<2> 前田満代
平成三年七月分 六万一二〇〇円
同年八月分 一二万七二〇〇円
同年九月分 八万六四〇〇円
合計 二七万四八〇〇円
<3> 久保博子
平成三年七月分 三万七八〇〇円
同年八月分 五万四六〇〇円
同年九月分 五万四六〇〇円
合計 一四万七〇〇〇円
3 以上のとおり、原告は、被告に対して給与の水増ないし架空請求をしてこれを本件病院に送金させ、これを着服したものである。
4 原告が、本件病院の院長である加藤裕彬(以下「加藤院長」という。)の指示に基づいて右請求をしたものであり、かつ、右請求により被告から送金された金員を原告が私的に費消した事実がないとしても、被告から本件病院の事務長として雇用された原告には、本件病院の経営が加藤院長の恣意に流れて被告の利害を害することのないように、右のような請求をする理由を被告に直接説明する義務があり、これを怠った原告には職務の著しい怠慢がある。
5 仮に、本件解雇が無効であるとしても、本件訴訟第一五回口頭弁論期日(平成六年三月九日)において、被告は原告に対し、本件病院の廃院の日である平成四年八月一〇日付けをもって解雇する旨の意思表示をした。
二 原告の主張
1 被告は、本件病院の管理・運営を院長である加藤裕彬(以下「加藤院長」という。)に委任していたところ、原告は、加藤院長の指示に基づいて一の1及び2記載の各請求をした。
2 加藤院長は、本件病院の経営上の必要性に基づいて一の1及び2記載の各請求をするよう原告に指示したものであって、右請求により被告から送金された金員は、すべて本件病院の経営のために管理・使用されており、ましてや原告が私的にこれを費消した事実はない。
従って、右各請求に何らかの手続的瑕疵があるとしても、これを理由として、原告を懲戒解雇に処するのは懲戒権の濫用に該当する。
3 被告が平成四年八月一〇日付けでした解雇の効力は争う。
第四当裁判所の判断
一 原告が、被告に対し、被告の主張1及び2記載の各請求(以下「本件給与請求」という。)をし、被告が右請求額を本件病院に送金したことは当事者間に争いがない。
二 被告は、本件病院の敷地建物を所有し、本件病院の診療報酬を取得するとともに本件病院の経営にかかる資金をすべて支出していたもので、本件病院を実質的に経営していた。そして、原告を始めとする本件病院の職員はすべて被告との間で雇用契約を締結し、本件病院を勤務場所として就労していたもので、右職員らに対する給与は雇用者である被告がこれを支払っていた(<人証略>)。また、被告は、本件病院の職員として採用された者のみに適用される就業規則等を作成していない(<証拠略>は、本件病院の前経営者が作成したものであって、本件病院運営のひとつの目安として事務長である原告に事実上交付されたものにすぎない。)から、原告を含む本件病院の職員には被告の就業規則、給与規定等(<証拠略>)が適用される。
本件病院の職員に関する採用及び給与等の決定は、加藤院長、本件病院の副院長である堀江、原告及び総婦長である甲斐弘子の四名で構成される運営会議において協議され、加藤院長、被告代表者及び被告の財務部次長(被告における本件病院の担当者)である小和田克人が、右運営会議で協議された方針につき検討し、最終的な被告の方針を決定することとされていた(<証拠略>)。しかしながら、前記のような本件病院の資金関係や本件病院の職員の雇用契約がすべて被告との間で締結されていたこと等に照らすと、本件病院の職員に関する採用及び給与等は、被告代表者がこれを決定するものであり、加藤院長は、被告代表者に対して意見を述べうる立場にあるにすぎなかったというべきである。
従って、原告が、加藤院長の指示に従って本件給与請求をしたとしても、そのことから直ちに右各請求が被告の了解のもとになされたものであったと評価することはできない。
なお、被告代表者は、加藤院長に対し、平成三年三月八日付けをもって、加藤院長に本件病院の管理・運営の一切の件を委任する旨の委任状を交付した(<証拠略>)が、右委任状は、本件病院の開設許可申請に際し本件病院の経営主体が営利法人である被告でないことを関係官庁に説明するための書類にすぎない。
三 証拠(<証拠・人証略>)によれば、原告が本件給与請求をした事情及び右請求に基づき送金された金員の本件病院における使用状況等は以下のとおりであったと認められる。
(一) 被告が水増し請求であると主張する金員(被告の主張1<1>ないし<3>)
(1) 甲斐弘子は総婦長として勤務していた者であるが、同年五月中旬以降、健康上の理由から、出退勤も不規則となり、欠勤することも多くなった。しかし、総婦長という本件病院にとって重要な地位にある人物であり、看護婦のまとめ役としての役割も期待されていたことから、加藤院長は、甲斐に対し、勤怠状況のいかんを問わず給与を全額支給する旨約束し、原告にもその旨を指示していた。
樺山敦子は看護婦長として勤務していた者であるが、原告が本件病院に着任した平成三年五月当時、家庭の事情により時々しか出勤できない状態であった。しかし、加藤院長は、樺山は本件病院にとって必要な人なので給与は総支給額の六〇パーセントを支給するようにとの甲斐総婦長からの申し入れに従い、原告に対し、総支給額の六〇パーセントを樺山に支給するよう指示していた。
(2) 右の事情により、甲斐総婦長及び樺山看護婦長は欠勤がちであったところ、中島りつ子看護婦長も、家族の看病を理由として、平成三年八月二一日以降長期休暇をとることとなったため、看護婦のまとめ役となるべき総婦長及び看護婦長二名が正常な勤務を遂行できない事態となった(平成三年八月二一日から同年九月二〇日の間における右三名の出勤率及び給与規定上右三名に支払われるべき平成三年九月分の給与総額は、被告の主張1<1>ないし<3>記載のとおりである。)。原告は、右事態を放置して給与を従前のとおり支払い続けることは本件病院の経営上適切でないと考え、平成三年八月末の運営会議において、九月分の給与は三名とも総支給額の六〇パーセントとし、特に、樺山婦長については、勤怠状況の改善がみられない場合は一〇月分以降の給与を総支給額の四〇パーセントとする旨を提案した。原告の右提案に対し、加藤院長は、前記のような甲斐総婦長との約束を理由として必ずしも賛成はしなかったが、原告の友人でもある堀江副院長が原告の提案に積極的に賛成し、結果的に右提案が採用された。
そして、原告が右運営会議における決定に基づいて被告に対して本件病院の職員の給与を請求する準備をしていたところ、平成三年九月一九日、加藤院長は、原告に対し、看護婦に辞められると病院運営上不都合であるとの理由により、甲斐総婦長らに対する給与を全額支給するよう指示した。原告は、運営会議での決定に反するとして、右指示に反対したが、加藤院長の全額支給の意向が極めて強かったため、結局、被告に対しては右三名への全額支給を前提として給与を請求するが、同月二五日の給与支払日には運営会議決定に従い、総支給額の六〇パーセントしか支給せず、その余の支払については、加藤院長に一任することとなった。
(3) 右の経緯に基づき、原告は被告の主張1<1>ないし<3>記載の各請求をし、右請求に基づく金額が被告から本件病院に送金された。
原告は、平成三年九月二五日の給与支払日に右三名に対し総支給額の約六〇パーセントを支給し、その余(甲斐については一四万〇三〇六円、樺山については六万二八八四円、中島については六万七三六八円)は各人別に封筒に入れ、経理担当の事務員である中野孝枝に指示して本件病院内の金庫に保管し、加藤院長にもその旨を報告した。
その後、原告は、敬老の日に入院患者らに配付する菓子代、勤務時間中に本件病院の駐車場において破損した職員の自動車の修理代及び退職した職員の社会保険料の立替払いに右保管された金員の一部を流用し、右出費の事実を示す領収書やメモを右封筒に入れて、残りの現金とともに併せ保管していた。
(二) 被告が架空請求であると主張する金員(被告の主張2<1>ないし<3>)
(1) 裴鴻文は平成三年六月から本件病院において医師として勤務していた者であり、本件給与請求にかかる五〇万円は、もともと同医師に支払うべき給与であった。
しかし、同医師が同年七月中国に一時帰国したため、同医師不在の間はアルバイトの医師を雇って診療に当たらせることとなったが、被告に対しては、既に了解済みである裴医師に対する給与を引き続き請求し、右請求に基づき送金された金員を、同医師に代わるアルバイト医師の報酬に充てていた。
(2) 前田満代は平成三年七月以降本件病院の夜勤のみを担当する看護婦として勤務していた者であったが、加藤院長は、看護婦の法定定数を確保するために関係官庁に対する提出書類上前田を通常勤務可能な看護婦として扱うことになるので、勤務時間に応じた時間給のほかに名義料として月々三万円を支払うよう原告に指示した。原告は、名義料の支払はやむを得ないものの、被告に対し名義料名目で請求しても了解が得られない可能性が強いと考え、名義料を含む総額に見合う時間数前田が勤務したことにして被告に給与を請求し、送金された金員を前田に支払っていた(ただし、平成三年九月分の給与については、被告から送金された金員の一部しか前田に支払われておらず、その残額は、前記甲斐らの給与と同じく封筒に入れられた状態のまま金庫に保管され、一部が前記菓子代に流用された。)。
(3) 久保博子は平成三年七月以降本件病院の栄養士として勤務していた者であったが、同年一〇月ころに従前の勤務先を退職する予定であったため、それまでの間、本件病院には、見習いとして時々出勤することとなっていた。しかし、本件病院においては、栄養士についても法定定数を確保できない状態であったため、加藤院長は、関係官庁に対する提出書類上久保を正規の栄養士として扱うこととし、同人に時間給のほか名義料として月々三万円を支払うことを約束した。原告は、前田の場合と同様名義料として被告に請求することはせず、名義料を含む総額に見合う時間数久保が勤務したことにして被告に給与を請求し、送金された金員を久保に支払っていた。
四 また、証拠(<証拠・人証略>)によれば、以下の事実が認められる。
前記認定の経緯により、原告は、平成三年九月二五日、甲斐総婦長ら三名に対する給与の約六〇パーセントのみを支給した。ところが、原告の右措置を不満とした甲斐は、看護婦主任である坂本ヤヨイとともに上京し、被告代表者の自宅を訪問して、原告が被告に対し本件病院の職員の給与を水増し請求し、差額を私的に着服している旨を申し立てた。
右申立てに基づき、被告は、同年一〇月七日及び八日に、原告に対し、被告顧問である高木を介して辞職を勧告したが、原告は、不正な事実はないと主張し、同月九日に上京して高木顧問に本件給与請求にかかる事情を説明した。
しかし、被告は、原告に対し、同年一〇月二四日、原告が本件病院に勤務していない者をいかにも勤務しているかのように偽り、被告に対して給与の支払を請求して送金された金員を着服したことが懲戒解雇事由(職務上、所属長の指揮、命令に従わず職務秩序を乱し、若しくは不正不法の行為をし、或いは風紀を乱した者であって、その情状極めて悪質なる者)に該当するとして、同年一〇月八日付けをもって懲戒解雇する旨の意思表示をした(被告作成の懲戒解雇通知書には「就業規則四〇条一二項により」とあるが、同規則上懲戒解雇事由は四一条に列挙されており、右「就業規則四〇条一二項」は「四一条五項」の誤りであると認められる。)。
なお、甲斐総婦長及び坂本看護婦主任は、原告が解雇された後、経理担当の事務員である中野に対し、経理関係は自分たちを通して処理するよう申し入れたが、中野が被告に確認した結果、中野と被告が直接連絡を取り合って本件病院の経理を処理することが決定された。
五 三において認定したところによれば、原告が、本件において被告から送金された金員を私的に着服ないし費消した事実は認められない。しかし、加藤院長や原告は、前記のような本件給与請求にかかる個々の事情を、被告代表者ないし小和田に対し何ら説明しておらず、また、原告から請求される本件病院の職員の毎月の給与について、小和田は控除額に計算違いがないかどうか等を確認し次第右請求額を被(ママ)告に送金していたにすぎず、各職員の具体的な勤務状況を確認ないし承認したうえで送金していたものではなかった(<人証略>)のであるから、小和田は、原告のした本件給与請求が右のような事情に基づくものであることを知らず、従って、右請求が経営上妥当なものであるか否かを判断する機会のないまま、右請求額を送金したことが認められる。
原告は、本件病院の事務長として被告に雇用された者であるところ、東京都に本店を有する被告が宮崎県所在の本件病院の経営の実情を詳細に把握することはできず、殊に、原告が本件病院の職員の給与を被告に請求するのは毎月二三日ころであって(原告本人)、給与支払日である二五日までに、小和田が、個々の職員の勤怠状況を確認した上でその給与を送金することは極めて困難であることを考えると、単に加藤院長の指示に従い被告に本件病院の職員の給与の支払を請求するのみでは、原告が被告との間の雇用契約上の義務を果たしたとはいえず、右給与の支払が本件病院の経営上妥当なものかどうかについて加藤院長とは異なる立場から独自に検討し、疑問があればこれを被告代表者ないし小和田に直接報告してその判断を求める雇用契約上の義務があったというべきである。
そして、三において認定したところによれば、本件給与請求は、いずれも給与規定等に基づく通常の給与請求とはいえず、右のような給与の支払が本件病院の経営上相当であるか否かについては、少なくとも事前に被告代表者ないし小和田の経営判断を求めるべきものであったといわなければならないから、原告が前記のような雇用契約上の義務を履行していなかったことは明らかである。
しかしながら、一方において、証拠(<人証略>)及び前記認定事実によれば、<1>原告は、甲斐らに対する給与がその勤怠状況に応じて支払われるべきであると考え、平成三年九月分の甲斐らに対する給与を六〇パーセント支給とすべきことを同年八月末の運営会議で提案して原告の友人でもある堀江副院長の支持のもとにこれを決定し、更に、加藤院長が右運営会議の決定に反して原告に対し右給与の全額支給を指示した際にも、運営会議の決定に従うべきことを主張して、甲斐らに対する同年九月分の給与を同月二五日の給与支払日には六〇パーセントしか支給しないなど、本件病院の看護婦に対する給与がその勤怠状況に応じて支払われるべく努力をしていたこと、<2>原告は、本件給与請求に基づき被告から送金された金員のうち甲斐らに支払わなかった分を封筒に入れて本件病院内の金庫に保管しており、これを私的に着服した事実はないこと、<3>原告は、金庫に保管していた金員を菓子代等に流用しているが、本件給与請求はもともとこれらの出費に対応するための金員を確保することを目的としてなされたものではなく、また、右流用にかかる出費が本件病院の経費として明らかに不相当なものともいえないこと及び<4>本件の発端は、甲斐らが被告代表者に対し四において認定した内容の申立てをしたことにあるところ、甲斐らは、平成三年九月分の給与について原告がとった措置を不満とし、原告に対する報復を目的として、右のような申立てをしたものであり、被告は、本件解雇当時、本件病院内の金庫に保管されていた前記金員の存在を知らなかったため、原告が被告から送金された金員を私的に着服した旨の甲斐らの右申立てを全面的に信用して、本件解雇をしたものであること等の事情を認めることができ、これらによれば、本件給与請求をしたことは、確かに「不正不法の行為」ではあるけれども、「その情状が極めて悪質」であるとまでいうことはできず、結局、本件において懲戒解雇事由に該当する事実は存在しないというべきである。
従って、本件解雇は、懲戒解雇事由が存在しないのになされた懲戒解雇処分であり、無効である。
六 もっとも、被告は、本件病院を平成四年八月一〇日付けで廃院して本件病院の職員全員を同日付けで解雇しており(<証拠略>)、右同日付けをもってなされた被告の主張5記載の予備的解雇は有効であるというべきであって、本件雇用契約は右同日をもって終了した。
七 以上のとおりであるから、原告の請求は、平成三年九月二一日から平成四年八月一〇日までの給与の支払を求める限度において理由があり、右期間に対応する給与総額は三二〇万三二二五円である(被告給与規定によれば、被告における月額給与計算上の賃金締切日は二〇日であり、賃金締切期間の中途において退社した場合に支払われるべき賃金額は日割りで計算することとなっているところ、平成四年七月二一日から同年八月一〇日までの期間に対応する賃金額は二〇万三二二五円である。)。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 山之内紀行)